産業情報保護法――特に先端技術の流出防止を急げ

 

北朝鮮は、日本を標的にした長距離ミサイルや核弾道の開発と配備を進めているが、その技術の主要なものは、我が国から流出したものである。(もちろん、中国の企業が水面下で核濃縮の装置を輸出したり、協力を行ってきたことは言うまでもない。)

北朝鮮の科学技術協会の研究者が、身分を偽って京都大学の核研究の学者に接近し、重要な研究成果を盗んだことも報道されてきた。ところが、我が国の学会は、このような重要技術の盗用にきわめて関心が乏しく、これを取り締まる法律もないありさまである。

他方、米国では、安全保障にかかる重要技術を指定し、この流出防止のための規制法を二重、三重に整備している。

例えば、2017年3月、中国の通信機器大手、中興通訊(ZTE)がイランと北朝鮮に輸出が禁止されているルーターなどの通信機器を違法に輸出したことに関し、合計11億9千万ドル(約1360億円)の罰金を支払うことに合意したと発表した。安全保障や高度産業技術の輸出規制に基づく罰金額では過去最大規模である。

当初、ZTEは違反を認めていなかったが、商務省は16年3月に米国企業に対してZTEとの取引に際しては特別な認可を取得するよう義務づけたので、ZTEはこれに抗しきれなかったのである。

我が国も、米国に倣い、産業界、学界に広く網をかける規制法と課徴金制度、取引制限など多角的に防止する法律を至急整備しなければならない。

 

2020年8月、中国との国境紛争をかかえるインドは、中国製の動画アプリ、ゲームアプリ、ウイルス対策ソフトなどの使用を禁止した。アメリカも、ファーウェイ、tiktokなどに対する使用禁止措置を講じ、政府機関の出先と認定した孔子学院を閉鎖させ、中国からの国費留学生の受け入れを禁止した

 

 

2015年5月、中国は「中国製造2049」を発表し、2049年までに世界の最大製造強国になるという目標を掲げ、着々と準備を進めている。対象は、以下の10の産業分野である。

次世代情報通信技術(IT,半導体を含む)、先端デジタル制御工作機械とロボット、航空宇宙設備、海洋建設機械・先進船舶、先進軌道交通技術、省エネ・新エネルギー自動車、電力設備、農薬用機械設備、耐熱材料、先進医薬・医療機器、

 

この目標達成のため、

① ネット侵入などのスパイ工作を用いて、西側の先端製造技術を窃取する。

② 海外企業との技術提携、商談を通じ、製造ノウハウなどを窃取する

③ 国家情報法により、日本企業ではたらく中国人社員や留学生などにスパイ活動を命じる

④ 国防動員法によって、国内の日本企業の資産(技術、設備も含む)を接収する。日本人技術者などの出国禁止を命じる。

⑤ さらに警戒すべきことは、中国政府が外国の高度の機器製造会社(複合機など)に対し、設計や製造の全工程を中国内で行うよう要求する準備をしていることである。

 

帝国データバンクによると、2020年1月時点で、中国(香港とアモイを除く)に進出している日本企業は、13646社に達している。5年以内に、中国は台湾を武力併合すると多くの識者は見ているが、

今のうちから、日本企業は、撤退、先端技術の供与停止、先端製品の引き揚げなどを、計画しておくべきであろう。それを支援する補助金を、経産省は大幅に増やすべきであろう。

 

2022年11月25日、米連邦通信委員会(FCC)は、華為技術(ファーウェイ)など中国大手5社の通信機器の輸入、販売を禁止すると発表した。

米政府は、政府から補助金を受ける米企業がファーウェイなどから機器を購入することを既に禁じており、排除を強化した。FCCは「安全保障上の脅威から国民を保護する取り組みの一環だ」と強調した。販売禁止対象はファーウェイのほか、通信機器の中興通訊(ZTE)、監視カメラ大手の杭州海康威視数字技術(ハイクビジョン)と浙江大華技術(ダーファ・テクノロジー)、無線機大手の海能達通信(ハイテラ)。子会社や関連会社も対象となる。

また、英政府も22年11月24日、杭州海康威視数字技術(ハイクビジョン)などの中国製監視カメラの設置を機密性の高い場所では中止するよう、各政府部門に命じた。国家安全保障上の脅威を理由としている。

政策監督を担う高官のオリバー・ダウデン氏は声明で「英国に対する脅威とこれらのシステムの能力と接続性の高まりを考慮して」行われた決定だと主張。対象となる企業は「中国共産党の国家情報法の適用を受ける企業」だとし、こうした企業の監視カメラを「政府の中核ネットワークに接続すべきではない」と強調した。

中国共産党が2017年に制定した「国家情報法」により、中国企業は要請に応じて当局にデータを提供することが義務付けられているため、この決定は事実上、すべての中国メーカーの監視カメラ設置を禁じることになる

取り急ぎ、以下のような立法措置を望みたい。

 

1 国外への流出を防止すべき先端科学技術と産業技術を指定し、それを毎年見直し、関係方面に通知する。

2 企業及び大学、研究機関に対し、同技術の流出を防止する措置(ソフトとハードとヒュウマンファクター)の整備と監視を義務付ける。その基準の詳細は、政省令で定める。

3特定国(別に定義)に進出している企業の撤退、先端技術の利用停止、先端製品の引き揚げを支援する助成措置を設ける。

4 流出を制止する措置を講じないで、結果的に特定国に流出させてしまった企業、大学、研究機関は、故意過失を問わず、これを処罰の対象とする。

5 重要技術の窃取を目的とする行動を監視するために、必要な権限を関係組織に付与するとともに、ファーウェイなど、安全保障上の脅威となるきぎょうの機器の購入、販売を禁止する。(通信傍受、監視組織の強化等)

5 先端技術の管理、流出状況について、毎年、国会に報告書を提出するものとする。

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日本政府は、2022年12月、経済安全保障推進法に基づき「国民の生存に不可欠」で安定供給が必要な「特定重要物資」として航空機など11品目を指定した。23年3月には、さらに、半導体、蓄電池、永久磁石、レアアース精錬、産業用ロボットなど9分野を追加した。これを受けて、外国為替及び外国貿易法に基づく「コア業種」も追加指定された。コア業種に関連する企業の株式を、海外投資家が1%以上を取得する場合、国への事前届け出が義務付けられる。

 

なお、米国は、下記のような法律を制定している。我が国の、不正競争防止法は、もともと国内企業の不正な活動を取り締まる法律であって、中国共産党、軍部のような海外からの組織的な情報窃取を念頭に置いて作られたものではない。

 

米財務省のOFAC規制(21年6月3日の大統領令に基づく)

 

中國軍の関連企業68社がアメリカ市場から資金を調達することを禁止。資産凍結も。(中国電信、中国海洋石油、中国移動通信などが米市場から撤退させられた)

アメリカの個人、団体が、中国軍の関連企業の株式、社債などを購入するなど取引の禁止、

ファーウェイ、ハイクビジョン、ZTE,ダーファ、センスタイムなど中国軍傘下企業の製品の政府調達を禁止。

 

日本では、ソフトバンクなどがZTEの携帯、Wifiを採用し、セコムなどがハイクビジョンの監視カメラやセンスタイムの画像認識を採用しているので、その情報はすべて中国のサーバーに送られ、監視されている。監視カメラには、さらにバックドアが仕込まれ、発電所、鉄道、化学工場などに進入し、電力、交通、通信網の破壊や工場の火災を引き起こすことができる仕組みになっている。日本人と日本企業は丸裸にされているのである。中国は、ひそかにハイブリッド戦争を仕掛けている。

 

 

米国の経済スパイ対策法(1996、USC1831~)

 

1831条(経済スパイ活動)

 

(a) 何人といえども、その犯行が外国政府、外国機関もしくは外国の工作員に利益を与えることを意図しつつ、またはこのことを知りながら、次に掲げる行為を故意に行った者は、本条項に定める場合を除き、50万ドル以下の罰金もしくは15年以下の禁固に処し、またはこれを併科する。

① 企業秘密について、これを窃取するか、もしくは権限なく占有、取得、移動、隠ぺいの行為を行うかまたは欺瞞、策略、詐欺行為によってこれを入手する行為

②企業秘密について、権限なく複写、模写、写生、描写、撮影、ダウンロード、アップロード、変更、破壊、写真複写、複製、伝達、引き渡し、送付、郵送、通報、または運搬を行う行為

③ 企業秘密が盗まれたものであることまたはそれが権限なく占有され、入手されもしくは転用されたものであることを知りながら、これを受領し、購入しまたは所有する行為。(以下略)

(b) 本条(a)項に定める犯罪を犯すいかなる組織も、一千万ドル以下の罰金に処する。

 

1832条企業秘密の窃取

 

a) 何人といえども、企業秘密(定義略)を、その種夕社以外の者の経済的利益のために転用する意図を有して、かつその犯行がその種夕社に損害を与えることを一しつつ、又はこのことを知りながら、次に掲げる行為を故意に行ったものは、本条項に定める場合を除き、本第18編に定める罰金若しくは10年以下の禁固に処し、又はこれを併科する。

① このような情報について、これを窃取するか、もしくは権限なしに、専有、取得、移動、隠蔽の行為を行うか、または欺瞞策略、詐欺行為によって、これを入手する行為

② このような情報について、権限なしに模写、複写、写生、描写、撮影、ダウンロード、アップロード、変更、写真複写、複製、伝達、引き渡し、送付郵送、通報、又は運搬を行う行為

③ このような情報が盗まれたものであること、またはそれが権限なしに専有され、入手され若しくは転用されたものであることを知りながら、これを受領し、購入し又は主有する行為。

④ 本項①から③のいずれかに定める犯罪を犯そうと企てる行為

⑤ 本項のいずれかに定める犯罪を犯すために、一人ないしそれ以上の他人と共謀し、かつ、当該他人が共謀の目的を達成するために行う何らかの行為

 

b)本条a項に定める犯罪を犯すいかなる組織も、500万ドル以下の罰金に処する。

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国防に関連する情報のスパイ活動に関しては、USC18-793条を参照してください。

 

https://www.law.cornell.edu/uscode/text/18/793