野放しの宗教活動を規制しよう

――宗教法人の情報公開等に関する法律(案)を提案する

                    

 

202278日、安倍晋三元総理が暗殺されたことは、我が国と世界に衝撃を与えた。その遠因を追求すると、統一教会(世界平和統一家庭連合)の洗脳によって、犯人の母親が多額の寄付をさせられ、家庭が崩壊したことの恨みに起因するものであった。

欧州でも米国でも、統一教会などの新興宗教団体の手口が家庭内に重大な紛争をまねいてきた。これに対処するため、フランスで「反セクト法」が制定され、欧州委員会決議が出され、米国でも、弁護士協会の報告書や判例が積み重ねられて来た。

Ⅰ アメリカは、政治活動等を禁止している

 宗教法人は、宗教上の所得について原則非課税であり、その境内建物や境内地にたいしても固定資産税や都市計画税などを免除されている。その営む収益事業についても有利な減免措置が与えられている。しかし、宗教施設を利用して政治活動や選挙運動をおこなったり、租税回避地を利用して営利事業をおこなったりする疑惑があり、本来の趣旨を逸脱しているという批判が根強い。また、入会の勧誘がしつこく、退会にあたって嫌がらせが報告される事例も後を絶たない。

 

カルトまがいのものもあり、魂の救済というよりも資金稼ぎの手段として悪用されている宗教団体もある。京都や奈良の有名寺院は、拝観料の名のもとに徴収した莫大な利益をため込み、これをファンド、サラ金などに預けて配当、利子を稼いでいるものも少なくない。反社会的組織に乗っ取られ、脱税の隠れ蓑となっている宗教団体も散見される。

 

ところが、アメリカドイツでは、宗教活動に実質的に関連したものだけに限り、租税の免税を適用するとしており、実際に免税する際には、その団体が政治団体化、営利団体化しているかなどを審査することになっている

すなわち、米国歳入法典第501(c)(3)によると、連邦所得税上の免税措置を受ける法人について、

(1) 利益分配の禁止  連邦所得税の免除を受ける団体がその純益を構成員間で分配することを禁止している。

(2) 政治活動の禁止 「その活動の実質的部分が立法に影響を与えるためのプロパガンダを行い若しくは立法に影響を与えようとし、又は公職の候補者のための政治的キャンペーンに参加し若しくは関わっている」ものであってはならないことを要求している。

また、寄附者の寄附控除について定めた第170条もまた、第501(c)(3)に定める政治活動の禁止によって免税地位を享受しえない法人に対する寄附は寄附控除の対象とならないものとしている(IRC§170(c)(2)(D) (「アメリカの宗教法人税制の検討―憲法の視点から」田近肇による)

 

Ⅱ 宗教法人の情報公開等に関する法律(要綱)

 

我が国においても、これに倣って

 宗教施設(通信設備も含む)が、選挙運動や政治目的のために使用されていないこと、収益を構成員や関連団体間で配分してはならないこと、営利事業部門と会計上も明確に切り離されていることを免税の条件とすべきであろう。また、公認会計士による会計監査を義務付けるとともに、収支報告及び財産目録をネットなどで一般にも公表すべきだろう。

 

  国から特段に有利な待遇を受けている以上、経営内容の見えない宗教団体の全貌を明らかにしてこれを国民に公表することが急がれている。フランスの反カルト法やアメリカの歳入法典など、海外の法制を参考にして、以下のような情報公開法を制定してみたい。

 

 (要綱)

 

 

  1 宗教法人(実質的にその支配下にある団体を含む)は、議員または政治団体に対し名目を問わずいかなる資金も提供してはならない。秘書の派遣、演説の機会の提供、事務の処理など便宜を供与した場合は、別に定める様式により、半年ごとに所轄庁に報告しなければならない。報告を受けた所轄庁は、これを一般の閲覧の用に供するものとする。

 

 宗教法人の職員又は信者は、入会の勧誘及び退会の阻止、会員資格の対価の支払い、寄付の拠出、物品の購入及び販売等に関し、心理的な威迫または暴力の行使をしてはならない。

 

 3 宗教法人の職員または信者は、境内建物、境内地またはその通信設備を利用して、信者に対し特定の党派のための政治活動または選挙運動を行うよう指示、教唆してはならない。(違反した場合は、税の減免も受けられないこととする。信者は、政治活動、選挙運動に関しては、最大の自由権を保証されなければならない)

 

4 宗教法人の行う収益事業と非収益事業の経理は、別に定める宗教法人経理規則にのっとり明確に区分しなければならない。その経理は、公認会計士の監査を受けなければならない。(不正な監査をおこなった公認会計士は、処分の対象となる。国外に移転された収入、国外からの収入の明記、一定額を超える収入とその件数の記載も、同経理規則で要求される)

 

5 経理の内容は、別に定める様式により半年ごとに所轄庁に報告しなければならない。報告を受けた所轄庁は、これを一般の閲覧の用に供するものとする。

 

6 宗教法人は、国内外を問わず、直接間接にかかわらず、営利企業に投資もしくは融資またはこれに類する財務活動をしてはならない。

 

 7 所管庁は、本法律に違反する行為に関する通報を受け付け審査する機関として、宗教法人運営審査会を設けるものとする。受け付けた通報は、必要な調査を行い、違反の事実が確認された場合は、すみやかに勧告、認証の取り消しまたは裁判所への提訴を行うとともに、その旨を公告するものとする。

 

 9 所要の罰則を設ける

 

Ⅲ 宗教法人の基本運営規則を定める

 

1984年5月、ヨーロッパ議会は、宗教団体の評価基準として13の基準を示したEC決議を採択した。その基準には、「入信の勧誘の間は、その運動の名称及び主義が、常に直ちに明らかにされなくてはならない。」、「未成年者は、その人生を決定してしまうような正式の長期献身を行うように勧誘されてはならない」などがある。これらの基準に適合しない団体は、宗教団体としての優遇措置をうけえないのである。我が国においても、宗教団体の基準そのものを、まず明確に定めることからスタートしなければならない。

 

日弁連は、1999(平成11)年3月に意見書「反社会的な宗教的活動にかかわる消費者被害等の救済の指針」を発表したが、これらを参考に、宗教審議会が新法に基づき制定することが望まれる「宗教法人の基本運営規則」には以下のような規則が盛り込まれることを期待したい。

 

(1)        入信若しくは献金、奉仕、献身の勧誘又は退会の阻止にあたって、

 先祖の因縁、地獄の恐怖あるいは健康の不安など本人の弱みを不当に利用した行為をしてはならない。

 本人の意思に反して長時間にわたって説得し、または

   多人数により若しくは閉鎖された場所で強く説得してはならない。

④ 入信または退会に当たり、熟慮期間を与えず、即断即決を求めてはならない。

 

(2) 献金、奉仕活動の開始後1年間は献金の返金、代償の支払いの要請に応じなければならない。

(3) 多額の献金または多大な奉仕、献身をおこない、団体の施設内で生活してきた者がその宗教団体から離脱する場合においては、その者からの返金または代償の支払い要請に応じなければならない。

 

(4) 献金、祈祷料等名目の如何を問わず、支払額が1000円以上の場合には、本人またはその二親等以内の親族の要請により受取を証する書面を交付しなければならない。

 

 (献身や出家など施設に泊まり込む信者・職員について

 本人と外部の親族や友人、知人との面会、電話、郵便による連絡を妨げてはならない。

 宗教団体等の施設から離れることを希望する者の意思に反して、当該施設内に居住させてはならない。

③ 信者が健康を害した場合、宗教団体等は事由の如何にかかわらず、外部の親族に速やかに連絡をとらなければならない。

 

(6)未成年者、子どもへの配慮として

① 宗教団体等は、親権者・法定保護者が反対している場合には、未成年者に信仰を強制し又は長期間施設で共同生活させてはならない

② 親権者・法定保護者が、未成年者本人の意思に反して信仰を強制し又は宗教団体等の施設内の共同生活を強制してはならない

 

 以上の規定は、それぞれの宗教団体の宗教法人規則において明記するとともに、内外に公表するものとし、これに違反した場合は、法人の認証の取り消しまたは裁判所への提訴を行うことができるものとする。

また、本人、二親等以内の親族または利害関係者は、所轄庁に設置される「宗教法人運営適正化審議会」に異議を申し立て、裁決による勧告、認証の取り消しまたは裁判所への提訴を求めることができることとする。同センターは、宗教施設および宗教法人の経営する営利施設に立ち入り調査することのできる権限を付与されるべきである。

 

なお、消費契約法において、不安をあおる霊感商法などにより商品を買わされた場合は、一定期間の範囲内でこれを取り消すことができ、また消費者団体が多数の消費者に代わり差し止め請求ができる旨の規定があるが、事件化する以前の段階で、宗教団体が上記のような運営規則を制定し、これを公表しておくべきであろう。

 

 

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フランスの反カルト法

 

 セクト的団体の定義は、「法的形態若しくは目的がなんであれ、その活動に参加する人の精神的又は身体的依存を作り出し、維持し、利用することを目的又は効果とする活動を行うあらゆる法人」とされている。

宗教法人に限定されていない。 

 

セクト的団体若しくはその指導者が、「以下に挙げる違反の一つ以上に付き、刑事上の最終的な有罪判決を複数回宣告された場合」、解散宣告をすることができる。

たとえば、生命侵害、人の身体的・精神的完全性に対する侵害、人を危険に晒させる行為、無知と脆弱な状態に付け込む不法侵害(新設)、略取及び監禁、売春斡旋、人間の尊厳に反する労働等について有罪判決を受けた場合である。

 

 セクト的団体の解散手続は、「管轄の検察官若しくはあらゆる関係者の請求によって大審裁判所によって行われる」。解散命令に対する不服申立期間は15日間。