教科書基本法

 

<謝礼の慣習>

2015年8月、三星堂が、検定中の英語教科書について愛知県の公立の小中学校校長ら11人の意見を聞いた謝礼として金5万円を渡していたことが発覚した。その後の県教育委員会による調査で延べ140人が謝礼を受け取っていたことから、合計700万円が謝礼に使われたことがわかった。この事件は、業界では長年の慣習であって氷山の一角に過ぎないと受け止められている。

 

建設事業では、入札の過程で不正があったときは、行政庁により少なくとも1年間は応札禁止が言い渡される。教科書謝礼事件の場合も、文部省は教科書会社に1年間以上の発行停止を命じるべきであり、そのための根拠法令を整備する必要があると思われる。

 

これと並んで、教科書の採択基準を市町村の教育委員会が明示することも必要である。   教科書採択の権限は、原則として市町村の教育委員会にあるが、実際には調査員に指名した現場の教師の主観的判断にゆだね参考資料を作らせているケースが多い。(国立中学と私立中学の採択権は、教育委員会ではなく、学校長にある)。

 

その結果、教師たちは日常的にリベートなど何らかの便宜供与を受けている教科書会社の教科書を採択する例が後を絶たないでいる。教育委員会とは名ばかりで、実体のない形式的存在となっているのである。

 

 <法令の趣旨を反映した採択基準を>

 

もっと重要な問題は、教科書を採択する際に、教育基本法および学習指導要領の趣旨に沿った選択が行われていないことである。法令の精神を無視して、現場の教師のふるい左翼イデオロギーに則した選択が行われている例が多いのである。

 

 平成18年に、教育基本法が改正され、これに基づき学習指導要領も改訂され、それまでの個人の権利偏重から「公共の精神を尊び」、「愛国心・伝統と文化を尊重し」、「我が国と郷土を愛する」といった理念が盛り込まれた。したがって、採択基準においても、これに則した基準を盛り込むべきであろう。全国教育問題協議会は、例えば歴史教科書について次のような基準を提案している。

 

 ・伝統と文化を十分に尊重する内容となっていること(2条5)

 

・我が国と郷土を十分に愛する内容となっていること(2条5)

 

・我が国の歴史に対する愛情を深め、国民としての自覚を育てるように十分になっていること(目標(1))

 

・国家・社会及び文化の発展や人々の生活の向上に尽くした歴史上の人物が豊富に取り上げていること(内容の取扱い((1)オ)

 

・地域社会の一員としての自覚をもって郷土を愛し、社会に尽くした先人や高齢者に尊敬や感謝の念を深め、郷土の発展に努めるように十分になっていること(内容4(8))

 

・日本人としての自覚をもって郷土を愛し、国家の発展に努めるとともに、優れた伝統の継承と新しい文化の創造に貢献するように十分になっていること(内容4(9))

 しかし、採択基準の作成を市町村の教育委員会に最初からすべてまかせるのは、委員会にとって負担が大きいので、この際、文部省は、省令によりモデル採択基準を制定してはどうか。盛り込むべき最低の基準を示し、これに追加する基準は市町村に任せるのである。

 

文部省の採択基準のなかには、寡占の防止条項も含めるべきであろう。すなわち、「県内における採択割合が、各教科について1社3割を超えないものであること」といった基準である。また、「学校は、同じ教科書会社のものを3年以上連続して採用してはならない」という基準も検討されてよい。音楽や英語の教科書は、県によるが、8割以上を独占している会社があり、多様性の尊重、独占の禁止、新規参入の奨励といった観点から、規制すべき時期に来ていると思われる。

 

 また、前記の謝礼の支払いについても、たとえば、「教員が、教科書会社またはその代理者から検定にかかる教科書もしくは既に採択された教科書に関し、謝礼の支払い、旅行の斡旋、参考書の無償供与その他の便宜供与を受けた場合は、その教科書会社の教科書は採択してはならない」といったような基準も盛り込むべきであろう。

 

<検定基準の明確化を>

 

さらにもっと根本的なことを言えば、文部省による教科書の検定の基準が、教育基本法と学習指導要領の改訂をまだ十分反映していないことに問題がある。

 

教科書の執筆者は左翼またはそのシンパがいまだ多数を占めており、歴史教科書の内容は、自虐的あるいは外国に迎合的な卑屈な記述が後を絶たないでいる。政治目的を持った外国のプロパガンダをそのまま受け入れることは、「外国を尊重」することにならない旨をはっきりさせなければならない。政治的なデマ、プロパガンダのたぐいであっても、近隣諸国条項からこれに配慮して教科書に記載するというのは、不見識のそしりをまぬかれない。事実よりも政治的な妥協を優先させようとする近隣諸国条項の廃止をふくめて、検定基準を疑義のないように明確に記述する必要がある。教育基本法にあるように、教育は外国や組合の「不当な支配に服すること」があってならないのであって、このことも検定基準に明記するべきであろう。外国の意見と日本政府の意見が異なる場合は、日本政府の意見を明記するものとするという検定基準も必要である。政府の意見と異なる見解を得々と教科書に書く国は、日本以外にないのである。

以上の趣旨を踏まえて、新たに総合的な教科書法を制定してほしいものだが、当面は、その中間的な議員立法法案として、次の教科書基本法を提案したい。

 

2020年8月、文部省に激震が走った。歴史の主任教科書調査官が、毛沢東礼賛の本を書いていたというのである。彼が、北朝鮮のスパイであるという証拠はないと文部省は言明するが、大した業績もなく、大学の准教授の資格も持たない彼がどういう過程で、選考されたのか、大いに問題の残るところである。その選考過程を公開するべきではないだろうか。

 

 教科用図書基本法()の概要

1 この法律は、教科用図書の検定、採択、発行その他教科用図書について必要な基本的事項を定める。

 

2 教科用図書検定調査審議会の委員及び検定に当たる教科用図書調査官は、教科用図書の発行に利害関係を有しないものであって、かつ教育基本法、学校教育法並びに学習指導要領に示す教育の目的、目標及び趣旨に即して審議することを誓約するもののうちから、文部科学大臣が公平かつ広範な識見を有する者を任命するものとする。

 

 3 検定調査審議会は、年度ごとに検定基準の適切性および妥当性について審議するとともに、申請にかかる教科用図書について合否の最終判定を下すものとする。

 

 4 検定に当たる教科用図書調査官は、申請にかかる教科用図書の内容が教育基本法、学校教育法並びに学習指導要領に示す教育の目的、目標及び趣旨に合致するとともに教科用図書検定基準のすべてに適合しているものでなければ、これを合格させてはならない。

 

 5 都道府県に置かれる教科用図書選定審議会の委員は、教科用図書の発行に利害関係を有しないものであって、かつ教育基本法、学校教育法並びに学習指導要領に示す教育の目的、目標及び趣旨に即して審議することを誓約するもののうちから、都道府県教育委員会が任命するものとする。

 

 5 都道府県教育委員会は、県立高校用の教科用図書の明確な採択基準を制定し、これを公表しなければならない。採択基準の制定に当たっては、都道府県知事の意見を聴取するものとする。この採択基準は、教育委員会の教育方針のほか、少なくとも次の基準を含むものでなければならない。

 

  1.  教育基本法及び学校教育法に示されている教育の目的、目標並びに趣旨を十分に反映していること

  2.  学習指導要領に示されている各項目に対応しつつその内容を十分に反映していること

  3.  閣議決定による政府統一見解または最高裁判所による確定判決が出されている論点は、その見解以外のものを記述していないこと

  4.  情報源の内外を問わず、明白な根拠に基づいた事実の確認が不十分な内容のものは、断定的に記述していないこと。

  5.  記述が公正中立であって、特定の政治思想、特定の政治団体の信条または外国の宣伝もしくは風説を反映したものでないこと

  6.  未確定な事件または事象についての記述が、一面的ないし一方的な見解を強調するものでないこと

     

6 義務教育諸学校の教科用図書の採択は、市町村の教育委員会が都道府県教育委員会の指導を受けつつ、それぞれの単位ごとに行うものとする。

7 市町村の教育委員会は、教科用図書の採択に当たり、明確な採択基準を制定し、これを公表しなければならない。採択基準の制定に当たっては、市町村長の意見を聴取するものとする。この採択基準は、市町村の教育方針のほか、少なくとも次の基準を含むものでなければならない。

① 教育基本法及び学校教育法に示されている教育の目的、目 標並びに趣旨を十分に反映していること

② 学習指導要領に示されている各項目に対応しつつその内容を十分に反映していること

 ③ 閣議決定による政府統一見解または最高裁判所による確定判決が出されている論点は、その見解以外のものを記述していないこと

④ 情報源の内外を問わず、明白な根拠に基づいた事実の確認が不十分な内容のものは、断定的に記述していないこと。

⑤ 記述は公正中立であって、特定の政治思想、特定の政治団体の信条または外国の宣伝もしくは風説を反映したものでないこと

⑥ 未確定な事件または事象についての記述が、一面的ないし一方的な見解を強調するものでないこと

6 義務教育諸学校の教科用図書の選定に際しては、当該市町村の区域において、同一の教科書会社のものを三年以上継続して選定してはならない。

 

 7 県立高校用の教科用図書の選定に際しては、当該都道府県の区域において同一の教科書会社のものを三年以上継続して選定してはならない。

 

 8 都道府県または市町村の教職員は、いかなる名目であれ、教科書会社またはその関連会社、関連団体から、金銭、物品、サービスその他便宜供与を受けてはならない。

9 文部科学省は、毎年の教科書会社の市場占有率を地域別及び教科ごとに集計し、これを公表するとともに、公正取引委員会に通知するものとする。

 

 10 附則において、この基本法にもとづき、所要の法改正並びに教科用図書法の制定を早急に行うことを明記する。

 

 11 附則において、国は、教科用図書見本本の配布に必要な費用の二分の一を補助することを検討するよう明記する。