国防関連産業育成強化法

 

かつて、50%以上の世界シェアを占めていた半導体産業は、米国のごり押しと円高によって、無残にも7%以下にに落ちてしまった。自由貿易を旗印としていた米国は、覇権を維持するために、管理貿易を押し付け、プラザ合意により無理やり日本の産業界の力をそいでしまった。

 

彼らの言い分は、通産省の産業政策は、自由貿易に反するという論法であった。しかし、米国こそ、最大の産業政策の実施者であった。彼らは、国防省に多額の補助金をつけ、インターネットの開発、半導体の発明、航空宇宙産業の育成を図っていたのである。

 

したがって、日米交渉の時、「わかりました。それでは、補助金は、通産省や文部省でなく、防衛省を通じて行いましょう。あなたの国防省の真似をして」といえばよかったのであるが、縦割りの行政では、そんな知恵は浮かばなかった。CIAに弱みを握られていた小沢一郎などの政治家も、抵抗できなかったのである。

 

今からでも遅くない。国防産業上重要な技術は、「安全保障上の重要技術」と位置づけ、防衛省の予算として、思い切った補助金を投じなければならない。半導体に対し中途半端な補助金が、産業支援機構から与えられているが、これでは米、中、韓に対抗できない。(なお、2022年7月に米上院は、国内の半導体製造と開発を支援するため、2800億ドルという巨費を投じることを可決した。台湾への依存度を下げるためでもある。)

 

幸い、GNPの1%に抑えられていた防衛予算は、2%に向けて増大する傾向にある。(財務省のプライマリーバランス黒字化は、意味がないので、破棄するか、10年ほど目標時期を遅らせるべき)

 

その原資としては、国債の発行(国債は返済する必要がなく、借換債を継続すればよい。国債の対GDP比が増大しても、5%以上のインフレにならない限り問題は生じない。60年償還がいやであれば、永久国債でもよい)と国の保有している米国債(180兆円)のうち金利分(および売却分)を原資とする国防産業強化特別会計を作り、そこから重要技術の開発支援をすればよい。

米中から多額の報酬をもって引き抜かれようとしている研究者を囲い込む財源にもなる。役に立たない日本学術会議を廃止し、その予算10億円も優秀な研究者に回すべきである。

 

ところが、日本の防衛産業は、利益向上が見込めず大手メーカーが相次いで撤退し、防衛装備品のサプライチェーン(供給網)の維持が懸念されている。防衛装備庁は利益率向上、研究開発支援、海外輸出強化の3点を中心に対策を検討しているが、国防産業強化の基本法がほしいところである。

 

それがあれば、例えば、三菱重工が開発していた国産旅客機も、防衛省が輸送機として50機以上注文することができたはずである。米、中、韓に対抗する新産業が離陸するには、どうしても国家の支援が必要なのである。(輸送機、消火航空機は、避難民輸送、災害対策としても急務である。)

 

三菱のスペース・ジェットは開発されたとしても、この普及を妨害しようとする米国は、型式証明を妨害することは初めからわかっていたはずである。ボーイングよりも、売れる航空機を製造しては困るのである。三菱ジェットが米国製のエアコンを搭載したところ、試験飛行中に水が漏れだしたが、これも米国の妨害工作とみるべきであろう。だから、北米のマーケットは考慮に入れず、最初からインドとインドネシアとの合弁会社を作り、国土省の認可をとって、国内線および東南アジアなどに販売する体制を固めておくべきであった。

 

ハイドロメタンやフリーエネルギーなど新エネルギーの開発、固体電池の開発、ロケット用固体燃料の開発、放射線の無害化技術、ドローン技術などにも、国防産業育成強化法により、多額の資金を供給しようではないか。独自の通信衛星網、測位システム衛星網を整備し、防衛、警察、災害対策に活用しようではないか。高度の技術者を囲い込むための予算も確保する必要がある。

 

今こそ、経団連が、国防関連産業育成強化法の制定に向けて動くべき時期である。国家100年の計のために。

 

なお、米国は国防権限法(2019)により、米国の中核技術を脅かす中国企業5社と米政府機関との取引を停止した。Hawei, ZTE, Hyleva Communications, Hangzhou HiKvision,Dahua Technokogyの5社である(スマホ、通信基地局、警察無線等の企業)日本政府も、同じような趣旨の法律を制定することが求められている。

 

国防関連産業育成法(趣旨)

 

1 内閣官房は、安全保障上重要な技術を「安全保障重要技術」として政令で指定するものとする。

 

2 重要技術を産業上離陸させるために必要な開発資金を内閣官房予算として確保し、その後は、防衛省又は経産省に予算を移管するものとする。

 

3 産業上離陸するまでは、開発企業に対し投資資金の提供、補助金の交付、利子補給又は投資減税を行うものとする。

 

4 安全保障重要技術は、海外移転を禁止し、海外企業による投資および融資を禁止する。海外企業への事務委託、下請けを禁止するなど、情報漏洩の防止策を講じる。

 

5 日本政府は、安全保障重要技術と競合する外国企業と直接または間接に取引をしてはならない。

 

6 外国企業に対し、特許の侵害訴訟を提起する場合、費用の半分を補助する。勝訴した場合は、補助金を回収する。

7 重要技術の開発に従事する日本人の大学院生、研究助手らに相応の学費と研究費を与える。海外留学生の研究状況は、常時監視を行うものとする。

 

8 安全保障重要技術に関する高度技術者の海外企業への転職を禁止し、要請に応じ、一定額の報奨金を与えるものとする。