政党法が不可欠

ーー党内の意思決定手続きを明確にし、説明責任を果たせ

 

 

2015年末、首相が消費税の軽減料率の導入を支持したことで、自民党の税制調査会が不満を強めたことがあった。自分たちの聖域と信じていた税制審査が侵されたので、既得権侵害と息巻いたのである。しかし、憲法によれば、政策の決定権は内閣にあるのであって、政党にはなんら権限はないのである。政党という組織は、任意の私的なものであって、憲法上の権限の裏付けはなにもない。政党は、言ってみれば憲法外の存在なのである。

 

 

そういう法的な裏付けのない私的政党が国の政策を事前に審査、決定するということは、厳密にいえば憲法違反の越権行為なのであるが、戦後は、自民党の一枚岩の体制下で、党の政策調査会と総務会が個別に各省の根回しを受けて事実上政策を決定する権限を握ってきた。ところが、90年代以降の行政改革と小選挙区制により財務省など各省の力が弱まり、内閣に権限を集中させる方向にすすんだため、政党の力は相対的に弱まってきた。関係各省の調整は、直接、内閣官房が担うようになったためである。こうして、政党は、党代表と党の代理議員を選び内閣に送り込むことによって間接的に政策に影響を及ぼすしかなくなってきたのである。

 

 

そこで、これまで以上に、政党内の意思決定手続きを整備することが必要になってきている。党の代表や役職はいかなる手順でえらびだすのか、その手続きに違反した場合の救済措置はどうするのかといった点について、明確に定めておかねばならない。この欠陥を暴露したのが、維新の党のドタバタ劇である。同党の松野代表が党大会を経ないで選出されたこと、9月末の任期満了時に執行役員会だけで任期延長を決めたことをめぐり、党内が大いにもめたことは記憶に新しい。

 

 

もっと根本的なことをいうと、どの国の近代政党も有権者に訴えるしっかりした綱領を持っているのだが、我が国には、基本的な安全保障政策や外交、経済政策について明確な綱領を持っていないものがある。党内の右派、左派の対立によって綱領がまとめられない民進党がその最たるものであるが、統一性と整合性のある党綱領を持たないということは、民進党が政党ではなく、徒党の集まりにすぎないということを物語っている。つまり、雑多な烏合の衆の寄せ集めにすぎないということなのだが、問題はこのような綱領を持たない寄せ集め徒党にも政党交付金を助成していることである。烏合の衆が安全保障政策などをまとめないまま国民の血税を吸っているのだから、これはもう「政党」ではなく「山賊」の類と呼ぶしかないと思われる。

 

 

また、議員立法を行うには、それを支援する政党の体制が整っていなければならない。ところが、我が国の政党には、与野党を問わず、金を勘定する経理局はあっても、立法を検討する立法局がない。したがって、党職員にも立法の素養を持った専門家がいない。衆参の法制局に依存しているようだが、同法制局の役人たちは、議員からの熱心な働きかけがなければ動こうとしない。かくて、忙しすぎて法案を考える暇のない議員と自発的に動かない法制局と立法を支援できない党組織、この三者が三すくみのままでいるので、議員立法は遅々として進まないのである。やはり、政党自体が、議員立法を推進する専門組織を党内に整備していなければならない。

 

 

さらに、政党職員の秘密保持義務が定められていないことも問題である。民主党の菅政権時代に、各省は職員の住所、氏名、電話、家族構成などの個人情報の提出を命じられたが、それらの重要な個人情報は民主党の職員を通じて、中国、朝鮮に流されたといわれている。事実とすれば、まことに由々しき事態である。

 

ドイツには、政党の要件について詳細な規定を定めた法律があるが、与党は海外の法制を研究したうえで、下記のような条項を含む政党法を提案すべきであろう。それが、野党に対する最大の牽制ともなり、与野党が政策立案能力を切磋琢磨することにつながるのである。政治資金の不正利用が続き、厳しい国民の批判を浴びている現在、政党が自浄能力と政策能力を高めなければ、やがて国民から見放されることとなろう。

 

 

 

政党法の主な条項

 

 

1 政党の要件を、徒党と区別するため次のように明確に定めることとする。

 

① 安全保障政策、治安政策、社会政策、外交政策および経済金融政策について、一貫性及び整合性のある詳細な党綱領をさだめ、公表していること

② 党首および政党(支部を含む)の役員の選任及び解任に関し明確な手続きを定め、公表していること。 

③ 前項に定める選任、解任の手続きに違反した場合の異議申し立てとその審査の手順について明確な定めがあること

④ 選挙に際し公表される党の政策公報(マニフェスト)の決定及び修正に関し、明確な手続きを定め、これを公表していること

⑤ 政党に所属する議員および職員について明確な行動倫理規程を制定していること

  ⑤-1 行動倫理規規程には、職務権限のない議員、職員が官僚と個別に通信、連絡、接触することを禁止する規定を含むものであること(通信、連絡はすべて官庁の広報室を経由しなければならない)

  

  ⑤-2 議員またはその代理人は親族以外の冠婚葬祭、宗教団体の会合、政策と無関係な諸行事(運動会、盆踊り大会など)に出席してはならない旨の規定を含むものであること

  ⑤ー3 行動倫理規定に違反した場合の資格はく奪等の懲罰の規定がさだめられていること

  ⑤-4 前項の懲罰に対する異議申し立てと審査の手順を定めていること

⑥.政党内に議員立法を支援し、審議する専門組織を備えていること

⑦ 政党助成金の収入および使途について監査する監査委員会(少なくとも1名の公認会計士を含む)を持ち、その監査結果を公表する規定を党規則で定めていること

⑧  政策または法案の事前審査は、閣議決定を拘束しない旨の規定を党則で定めていること

⑨ 政党の支部は、各市町村または職域に一つを超えないものであることを党則で定めていること

⑩ 支部の所在及び代表者は公開することを党則で定めていること

 

2.政党が以上に定める政党の資格要件を十分かつ明確に満たしていることに異議を有するものは、別に設ける学識経験者からなる政党資格審査委員会に異議を申し立てることができる。同委員会が、当該政党が基準を満たしていないと判定した場合は、その旨の認定及び勧告を行うものとする。ただし、この勧告は強制力を持たない。(したがって、勧告に従わないとしても政党結社の自由を奪うものではない)

 

 

2 政党の要件を満たしていないと政党資格審査委員会が判定した団体に政党交付金を交付してはならない。すでに受領している場合は、当該年度の助成金を返還しなければならない。

 

 

3 政党の要件を満たしていないと判定された団体は、内部規定を整備したうえで、再度資格審査委員会に審査請求を行うことができる。諸要件を満足していると判定された場合は、その判定の期日後の日割り計算で政党助成金を受けとることができる。

 

 

 

4 政党の党首および副党首の選挙に当たり、外国籍のものは党員、党友など名称のいかんを問わず投票することができない。投票権者は過去2年以上継続して党員または党友として党に資金的貢献をしたものに限ることとする。

 

 

5 政党は、公職の候補者の名称がその戸籍に記載された名称と異なる場合は事前にそれを選挙管理委員会に届け出しなければならない。また、選挙の日にさかのぼる20年の間に日本国籍を取得したものについても、その外国籍の名称を届け出なければならない。選挙管理委員会は、届け出の内容を官報、公報に掲載するものとする。

 

 

6 政党職員が職務上知り得た秘密を保持すべき義務について定める。

7 所要の罰則を設ける。

 

なお、構想日本、経済同友会、自民党(1983年、吉村試案)などからも、自己統治能力を高めるため政党法の提案が出されている。

個人よりも政党を選ぶ小選挙区制のもとで政党の地位が高くなった現在、政党を烏合の徒党と区別するとともに、その政策立案能力と倫理性と説明責任を向上させるための政党法を制定する必要が急がれている。