部隊行動基準(ROE)に関する法律 (自衛隊部隊行動基準法)

 

欧米では、軍事部隊が展開する場合の作戦行動を相手国の出方に応じて段階的に柔軟に引き上げる部隊行動基準(応戦基準)を制定している。rule of engagement (ROE)と呼ばれるものであるが、これを公開することによってある程度相手国の行動にも制約を与えることができるのである。

 

わが国では、正当防衛、緊急避難といった個々の警察官の行動のルールが援用されているが、これは本来的に部隊として集団行動する軍事部隊の行動にはそぐわないのである。警察官職務執行法は、個人又は少数の警察官が犯罪者に対応する原則を定めたものであって、部隊としての行動原則をさだめたものではない。機動隊はあるが、その小型武器は、個人として使用するものに限られ、戦車のように部隊として運用するものではない。

したがって、部隊として行動する自衛隊としては、少数の個々人による正当防衛、緊急避難にかわる新たな部隊行動基準を法律として制定しておく必要がある。

現行の自衛隊法は、組織法であって、行動権限法が未整備なのは、重大な問題点と言えよう。

 

東シナ海等におけるシナ軍の行動が近年明らかに威嚇的な威力偵察を繰り返していることにかんがみ、わが方もこれに即応しうる部隊行動基準(応戦基準)を作成しておかなければならない。これは、閣議決定でもよいのであるが、できれば自衛隊部隊行動基準法(権限法)を制定しておいて、あらかじめ部隊に基本的な行動基準と行動権限を周知させておき、細目は、武器弾薬の高度化、戦術の変化等に応じ、臨機応変に政省令で変更しうるように決めておくのが望ましいと考える。

 

自衛隊は、総理の防衛出動命令を待って出動するのであるが、敵が侵略し自衛隊員が多数負傷していても、防衛出動命令が出るまでは動けないという矛盾が存在する。さらに、総理官邸で出動命令の発出要件を検討している間に、ますます侵略がすすみ、自衛隊が甚大な被害を受けるという欠陥が明らかになってきた。したがって、防衛出動命令が出る前であっても、現場指揮官の判断で、応急的な侵略の防止と対処、被害局限の措置を講じることができるように、明確に規定しておく必要がある。

これが、ROE規定を整備しておくことの意義である。

(台湾国防部は、22年10月5日、中国軍による台湾領土、領海への侵入は、台湾に対する「第1撃」とみなすとし、従来の武力攻撃を「第1撃」とするという見解を修正した。領海への侵入に対し、いかなる方法で反撃するかは、明確にせず、あいまい戦略をとったが、これも一つの対処方法である)

 

また、邦人保護に際しての権限規定がないことから、アフガンの邦人保護について意思決定が遅れ、醜態をさらしたことは記憶に新しい。本来最後までとどまり、邦人の脱出を支援すべき大使館員が、いち早く脱出し、アフガンにいた邦人を放置するとは、言語道断である。また、無人機や気球の侵入に対しても、部隊としての武器使用権限をふくむ行動基準を制定しておく必要があろう。

部隊としての行動権限法を制定すれば、その範囲で、憲法が「変遷」し、規範的意味が変更されたことになるから、大手を振って、自衛隊は、行動できることになる。

その要綱は次のとおりである。

 

自衛隊部隊行動基準に関する法律(要綱)

 

外国勢力の威嚇または攻撃により、日本国の領域、国民の身体、生命、財産に侵害がおよびかねない危機的な事態を想定し、それを予防、対処、被害局限する部隊としての行動基準及び行動権限をさだめ、細目については省令により制定するものとする。

 

1 自衛隊の部隊としての行動基準及び行動権限を、陸、空、海の組織、階層ごとに、抑止、対処、被害局限に必要な措置をさだめておくものとする。

2 以下の危機事態における即応措置と権限委任される現場指揮官を防衛省省令により定めておくものとする。

 

① ミサイル発射

 ①ー1 ミサイル発射の兆候を察知した場合 

 ①-2 ミサイル発射を探知した場合

② 防空識別圏への侵入

 ②- 1 防空識別圏への侵入の兆候を察知した場合

 ②-2 防空識別圏への侵入を探知した場合

 ②ー3 領空、領海に侵入した場合

③ 戦闘機への攻撃

 ③ー1 戦闘機への攻撃の兆候を察知した場合(ロックオン)

 ③-2 戦闘機への攻撃を探知した場合

 ③ー3 戦闘機が攻撃を受けた場合

 

④ 艦船への攻撃

 ④ー1 艦船への攻撃の兆候を察知した場合

 ④-2 艦船への攻撃を探知した場合。

 ④ー3 艦船が攻撃された場合

 

⑤ 領海、接続水域、排他的経済水域への侵入

 ⑤ー1 その兆候を察知した場合

 ⑤ー2 領海、接続水域、排他的経済水域へ侵入した場合

   ⑤ー3 無人機や気球が侵入した場合。

 

⑥ 島しょ部への侵入、上陸

 ⑥-1 その兆候を察知した場合

 ⑥ー2 島しょ部へ侵入、上陸した場合。

 

⑦ 海外に派遣したPKO部隊は、同部隊の安全を確保するために必要な武器を使用することができる。

 ⑦ー1部隊への威嚇、襲撃の兆候を察知した場合。

 ⑦ー2同部隊が、威嚇、襲撃を受けた場合。

 

⑧ 国内の重要電子システム(交通、電力など)が侵入、妨害、破壊された場合、自衛隊はその復旧及び報復を行うことができる。

 ⑧ー1 侵入または妨害、破壊の兆候を探知した場合

 ⑧ー2 国内の重要電子システムが妨害、破壊された場合

 

⑨ 邦人救出のため、海外に派兵する場合において、邦人又は救出部隊の安全を確保するために必要な武器を使用することができる。

 ⑨ー1 邦人又は救出部隊に対する威嚇、襲撃の兆候を探知した場合

 ⑨ー2 邦人又は救出部隊に対する威嚇、襲撃を受けた場合。

 

(それぞれのケースに応じ、警告、威嚇、応戦、被害局限の措置及びそれぞれの意思決定権者をあらかじめ定めておくものとする。内閣総理大臣の個々の命令を待つ余裕がない、切迫した事態を想定し、それに応じた対応措置をあらかじめ、防衛大臣、幕僚長、現場の部隊、指揮官、戦闘要員に授権しておく必要がある。基本方針は法律又は政令でさだめ、細目の措置ーー警告の方法、威嚇の方法、応戦の手順などは省令で明確に定めておくものとする。)

 

3 部隊法会議(軍法会議に代わるもの)を設置し、その運用要綱を定める。この法律に違反した部隊の責任者と当事者の処罰、順守した部隊員の報賞などを決定する会議である。

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なお、海上保安庁についても同様の行動基準を定め、現場の指揮官に権限を委任しておく必要があろう。海上保安庁は、警察権を行使するとされているが、個々の保安官が相手国の個人と対峙するのではなく,艦船としての部隊行動をとるのであるから、ROEを明確にして、出来得る限りこれを公表しておくことが相手側の行動を制限することにつながる。

たとえば、シナの海警船が領海に侵入してきた場合

① 退去命令の信号を送る

② x分以内に進路を変更しない場合は、空砲を放つ

③ y分以内に進路を変更しない場合は、スクリュウ(または電子機器)を破壊する

などである。接続区域に侵入して来た場合なども含めて、ROEを整備しておくべきである。

 

ただ、政治家が「遺憾」というのみでは、シナに着々と既成事実を重ねさせる結果に終わるだけである。彼らは、威力偵察を繰り返し、すきあらば既成事実を獲得しようと画策している。

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2016年、東シナ海で日米印の海上共同訓練を実施中に、中国軍の戦闘機が南下してきた。それにスクランブルをかけた航空自衛隊機に対し、ミサイルを発射する準備のロックオンをしたため、自衛隊機は撃墜されかねない危機に陥った。他国の空軍ならROEに基づいて、空中戦で逆転の姿勢をとり、相手の戦闘機にロックオンをかけることになるが、我が国には明確なROEがないため、ひたすら逃げるほかなかった。不様を露呈したが、その後もこの欠陥は放置されたままである。

 

 

米国には、詳細なROE(応戦規定)があり、たびたび改訂されてきた。

Rules of Engagement   • Joint Pub1-02, Dictionary of Military and Associated Terms defines Rules of Engagement (ROE) as those “[d]irectives issued by competent military authority that delineate the circumstances and limitations under which United States forces will initiate and/or continue combat engagement with other forces encountered.”  Prior to 1954, there were not common ROE.  In 1954, the Joint Chiefs of Staff made their first attempt at mandating a common set of ROE for a branch of the armed services. However, it was not until 1986 that the JCS issued Peacetime ROE for all U.S. forces.  In 1994, the CJCS issued the first Standing Rules of Engagement (SROE). They were updated in 2000, and most recently in June 2005.  Despite the relative recency of formally identified ROE, the basis and underpinning of ROE is firmly grounded in a variety of sources going back to the start of our country.