財務省改革法

 

わが国の財務省は、特異な組織文化と思考様式を持っている。この独特の組織文化と思考様式が、デフレ脱却を遅らせ、賃金上昇を抑え、若年者の貧窮を招いてきたように思われる。例えば、次のような組織文化である。

 

① 財政均衡(プライマリーバランスの回復)が至上命題であり、そのためには経済成長による増収よりも消費税の引き上げに省をあげて注力しなければならない。消費税の増税により、デフレが進行してもそれは財務省の関知するところではない。増税による「財政健全化」に反対し、国債発行による経済成長路線を主張するものは、省内で出世させてはならない。

 

② 国債の発行を抑制し、国債費の圧縮を図ることが最重要課題であり、そのために「GDPに対する総負債比率」や「国民一人当たりの総負債額」を強調し、財政破たんの恐れを広報し続けることが肝要である。この目的のため、「政府の負債」を「国の借金」「国民の借金」とごまかし、税金で償還されることのない財投の負債も「国の借金」に加えるなど、無知で勉強不足の報道記者をまず洗脳することが効果的である。国債の発行は、日銀の当座預金との電子取引にすぎないが、国民の預金から借りているという印象操作を行わなければならない。建設国債の範囲をきびしく限定し、「赤字国債」は悪という刷り込みを報道記者に与えなければならない。緊縮路線に反対する報道機関は、クラブ取材からの締め出し、脱税調査、広告制限などあらゆる手段で圧力を加え恐怖心を植え付けなければならない。

 

③財務省の緊縮方針に反対する政治家を抑制するため、国税庁の機能はしっかり財務省に保持し、絶えず、脱税調査の威迫を与え続ける必要がある。

 

④ 主計局は、わが国の進路を決める最高の意思決定機関であり、知能指数の低い内閣にその権限を奪われてはならない。ただし、予算編成に当たり、内閣の要望を満たすための飴玉は少しばかり(5000億円ほど)用意し、しゃぶらせることを忘れてはならない。

 

⑤ 国の会計は、出と入りだけを概観する一般会計の大福帳方式が政治家及び報道記者、国民に分かりやすく、最良のものであり、財政のバランスシートの詳細な実態は財務省のみが把握しておけばよい。したがって、日銀や特別会計を含めた正規の連結財務諸表を公表してはならず(国債危機の嘘がばれるから)、また特殊法人に対する財政投融資の実態を知られてもならない。

 

⑥ 財政投融資は、特殊法人に対する財務省OBの天下りを確保するために不可欠であり、各省及び産業界に対する支配力を強化するにも有益である。財務省は、一般会計及び特別会計の上に君臨する最高の権力機構でなければならない。

 

⑦ かくして、政財界と官界に秘密の情報網を張り巡らせ(報道記者と民間に配置したOB群などから随時情報を吸い上げ、世論操作の工作を行い)、財務省の官房を最強の情報機関として維持することを忘れてはならない。

 

以上のような、特異な財務省文化が、財務省至上主義を招き、内閣機能の強化を妨げ、結果として、内閣における国家戦略(防衛、外交、経済戦略)の統合を妨げ、国力の増大を阻害してきたように思われる。戦後の防衛も外交も、国益の最大化戦略ではなく、財政均衡戦略に基づいて立案されてきたのである。

 

憲法上は、内閣に国家運営の責任があるのであって、財務省はあくまでも内閣の指導監督のもとに行動しなければならないのであるが、現実には、逆の権力構造になっている。そこで、内閣に実質的な機能を移し、国民に対する最終責任の所在を明らかにするために、次のような改革を行うこととしてはどうか。

 

財務省改革案

 

① 財務省主計局を内閣予算局に移行する。(当座は、現在の主計局の組織と人員をそのまま、移行させればよいので、簡単である。移行させたあと、統合政府の連結財務諸表の公表など抜本改革を行う)こうして、予算編成の権限を内閣官房に移行させ、大規模な減税、防衛費の増強、政府紙幣の発行等を実行することができる。(内閣人事局を設置したのであるから、内閣予算局を併置すれば、強力な内閣組織が出来上がる。それだけに、内閣の責任は大きくなり、選挙において国民の判断が下されやすくなる)

 

② 国税庁は、社会保険庁と合体させた歳入庁とし、国税と社会保険料の徴収を一体化させる。歳入庁は、内閣府に置く。(このほうが、はるかに効率的であり、また財務省の政策に反対する政治家も、恐怖心を持たなくて済む)

 

③ その見返りに、金融庁の機能を財務省に移管する。こうすれば、財務省の役割は、金融監督と国債管理、資産管理が中心となり、機能的にすっきりする。これまで、財務省は、あまりにも過大な役割を独占し続けてきたきらいがあるが、これにより米国の財務省のようにすっきりした金融調整専門組織となる。

 

このような体制になれば、内閣予算局、内閣人事局、内閣情報局を擁する内閣官房が最高の権力機構となろう。内閣の下に統合戦略を実施し、国力を最大限に発揮し、海外に対する影響力を増大させるために、不可欠な改革であると考える。また、失敗した場合の責任の所在が明確となる。

 

 ただ、問題は、強大な猫の首に鈴をつけることのできる鼠がいるかどうかであろう。鼠たちは、叡智を結集し、猫を酔わせたすきに鈴をつける作戦を立案、実行しなければなるまい。