「パナマ文書」を分析した国際調査報道ジャーナリスト連合(ICIJ)は2016年9月、21の国や地域のタックスヘイブン(租税回避地)に設立された約21万4000件に上る法人や関連する個人名をホームページで公表した。

    このうち「日本」関連として分類されているのは約400件に及んでいる。(日本法人は、約50社) 

租税回避地(タックス・ヘイブン)の利用実態を暴露したパナマ文書を受けて、米政府は2016年5月に法改正案を発表した。

 

これは、租税回避地に企業を設立する場合、実質的な支配者の情報を財務省に報告すること、金融機関は口座を開設している企業に25%以上の出資をおこなっているものまたは実質的な影響力を有しているものの身元を確認するとともに、疑わしい取引がないか監視することを義務付けようとするものである。

 

日本政府の動きは、非常に鈍いが、日本企業が本来国内で支払うべき税金を回避するため、あるいは宗教法人がその営利行為を隠ぺいするために租税回避地を利用している例が多いことにかんがみ、米国の法律を参考にしたものを早急に提案すべきであろう。

また、米国は、2013年に外国の金融機関に対し米国 人顧客の身元や保有資産に関する報告を義務付けるFATCA(外国口座税務コンプライアンス法)を制定している。この法律は、アメリカの市民権を持つ人々に保有する金融資産を「米国税庁(IRS)」への報告を厳格に義務づけるとともに、米国内のみならず海外の銀行も、米国民の口座をすべて「米国税庁」に報告しなければならないとする法律である。もし米国民が国外のタックスヘイブンに秘密口座を持っていることがばれると、巨額の罰金が課せられる。我が国においても、同様の法律の制定が急がれている。

 

 世界の貿易取引額の約半分以上が、少なくとも書類上はタックスヘイブンを経由しているとみられている。(『タックスヘイブンの闇』)銀行資産の半分以上、および多国籍企業の海外投資の三分の1がオフショア経由で送金されている。

 

米国の会計検査院(GAO)によると、2008年に、米国の代表的な大手100社のうち83社がタックスヘイブンに子会社を持っているという。また、欧州の大手100社では、99社がオフショア子会社をもっており、これらの子会社を使っているのは、圧倒的に銀行である。銀行は、タックスヘイブンに設立した子会社を使って、株を売買し、デリバティブを売買し、その莫大な利益は、本国には報告されず、徴税もされない。わが国を含め、銀行の利益率が極端に低いのは、このように利益を海外にうまく移転しているためであるが、国税当局は見てみぬふりを決め込んでいる。わがマスメディアも、追求しようとしない。

 

 

 租税回避地の利用の届出等に関する法律

 

<要綱>

1 租税回避地(香港、シンガポール、ドバイ、バーレーンを含め、別に定める)において、日本の個人、企業または団体が出資する現地法人が設立された場合は、法人の代表者は1か月以内にその出資者および実質的な支配力を有する者に関する情報を含め財務省に届けなければならない。出資者、実質的な支配力を有する者または出資の比率に変更を生じた場合も、その都度財務省に届けなければならない。

 

2 すでに租税回避地に現地法人を設立している場合は、その出資者および実質的な支配力を有する者並びに出資比率等について、法人の代表者は財務省に届けなければならない。

 

3 租税回避地に日本の個人、企業または団体が設立した現地法人の口座を管理している金融機関(外国の金融機関を含む)は、その25%以上の株式を保有しているものおよび実質的な支配力を有していると認められるものを確認するとともに、それが反社会的な団体である場合あるいは営利活動が国内法上認められない団体である場合は、その情報を財務省に届けなければならない。また、犯罪収益の移転にかかる疑わしい取引がなされていないかを審査し、疑わしい取引またはその兆候を発見した場合においても、遅滞なく財務省に届けなければならない。この場合において、財務省は、その情報を警察庁に通知するものとする。

4 財務省は、租税回避地の利用の状況について毎年度末に国会に報告書を提出するものとする。

4 届け出は、財務省が別に定める様式によるものとする。

5 所要の罰則を設ける。

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日本銀行の「直接投資・証券投資等残高地域別統計」(2013年度)によると、日本からケイマン諸島への投資額は55兆円にのぼっている。香港、シンガポールを含めるとどのくらいの投融資がなされているのか、正確な数字がないようだ。日本政府は、フランスやドイツにくらべ、タックス・ヘイブンとの租税条約情報交換協定の締結に消極的な姿勢をとり続けてきた。

自国企業の世界競争を税負担軽減で有利に導きたいという趣旨であろうが、その分一般国民に消費増税のかたちでしわ寄せがきている。このままでは、ますます多国籍大企業の社員と中小零細企業の社員の二極分化がすすんでいくだろう。国民の二極分化を避けようとするなら、タックスヘイブン課税や海外法人の配当の実質非課税の制度を改めなければならない。

 

福島県を日本版タックスヘイブンにしては?

 

アメリカの情報機関がパナマ文書を暴露した最大の理由は、デラウェア州など米国内のタックスヘイブンに世界の資金を誘導し、その動きを監視する狙いがあるものと思われる。デラウェア州(人口90万人)の法人税は2%で、英連邦のタックスヘイブンから資金を呼び寄せたいとアメリカは考えているようだ。

 わが国も、これに対抗して、福島県にタックスヘイブンを設け、福島を金融立県にしてはどうだろうか。そうすると、税務当局も収支状況を把握しやすくなるというメリットが生まれる。