<国家緊急事態に対処する法律を急げ>

 

北朝鮮の長距離ミサイルによる対日核攻撃の可能性が日増しに高まっている。これまで、平和念仏を唱えておれば日本は安心と考えていた左翼や報道機関も、朝鮮動乱の危機が迫るにつれて、やっと「今、ここにある危機」に目を向け始めた。

政府も、2017年4月にミサイル攻撃に備えた防護措置について、国民に啓蒙を始めた。わが国の大都市が、ミサイル攻撃を受けた場合、多数の死傷者が出るばかりでなく、指揮中枢機能がマヒし、交通、電力、水道などに被害が及び、産業活動も破壊されることになる。ミサイル攻撃ばかりでなく、反日勢力による大規模テロやインフラ破壊活動の恐れも増大している。

 一刻も早く、戦後目をつむってきた緊急事態に対処する法律を作り、政府に早期の事態収拾権限を与える必要があると思う。

 

 最近の事例をみると、130人が犠牲となったパリの大規模テロ事件(2015年11月)の直後、オランド大統領は「緊急事態宣言」を発令し、国境の封鎖、夜間の外出禁止、集会の禁止、不審者の自宅軟禁などの措置を取った。また、これにより、警察当局は令状なしで約800件の家宅捜索を行い、170件以上の武器を押収した。国軍も動員され、国境や街路での警戒活動に従事した。

 

2015年のフランスの緊急事態宣言は、1955年にアルジェリア独立宣言を受けて制定された緊急事態法に基づくものである。同緊急事態宣言は、フランス憲法に基づく国家非常事態宣言(大統領への非常大権の集中)でもなく、戒厳事態宣言(軍への秩序維持権の集中)でもない。

 

 

非常事態や戒厳事態の発令と国家権限に関する規定は、フランス、ドイツなど大陸法の憲法には設けられているが、英米法では、個別の立法によって定められている。例えば、憲法を有しない英国では、2004年の民間緊急事態法、2001年の反テロリズム法(テロ容疑者は、令状なしで逮捕、留置できるという規定もある)において、今回のような集団テロを想定した対処が可能となっている。米国においても、国家緊急事態法、愛国者法など個別の法律で定められている。

 

我が国の占領時代に作られた憲法は、基本的に米法の体系を導入したものであるから、憲法に緊急事態に関する条項はない。また、非常事態が起きたとしても、マッカーサー指令で超法規的に対応することが十分可能であったから、特に法律も設けられていなかった。(マッカーサー指令が、憲法を超越するものであったことは、表現の自由を規定した憲法条項にかかわらず、占領軍が新聞、雑誌の検閲を行っていたことからも明らかである。)

 

 

大規模な国際テロやミサイル攻撃の脅威がわが国にも迫っている今日、早急な憲法改正が望みえない現在の状況下では、いそいで、フランスの緊急事態法に似た関連の法律を整備する必要がある。緊急事態関係法を制定すれば、その範囲内で、憲法の人権規定(移動や集会の自由、捜索や逮捕の制限などに関する規定)の規範的意味が変更されたことになるから、特に憲法の人権規定の改正を待つまでもない。

 

それは、私学助成の禁止をうたった憲法第89条の規定にもかかわらず、私立学校振興助成法の制定により、公共の福祉の観点から私学に対する国家助成が行われ、結果として89条の規範的意味が変更されたのと同様である。このように、憲法条文を改正しないで、条文の規範的意味を変更することを、「憲法の変遷」と憲法学者は呼んでいる。占領下に作られた日本国憲法のように極端に改正要件の厳しい憲法のもとにおいては、しばしば起きる法現象である。(「憲法の変遷」の理論によれば、憲法九条も同様に、規範的意味が変更され、事実上失効している)。

 

 

<現行の法制では役に立たない>

 

現行の法制では、災害の緊急事態に対しては、災害対策基本法により、首相が「災害緊急事態」を宣言することができるが、この場合は、物資の配給、立ち入り禁止区域の設定、復旧、除染など、被害を限定する措置に限られる。平成7年の地下鉄サリン事件の際は、自衛隊が「災害対策」の一環として派遣され、サリン除染に当たった。

 

また、原子力災害については、原子力災害対策特別措置法により、原子力緊急事態宣言」を発令し、救援、避難命令など被害拡大防止のための措置を取ることができる。(強制的な避難命令を出せば、「移動の自由」が侵害されることになるが、公共の福祉の観点から同法の範囲内において、憲法の人権規定の規範的意味が修正されたわけであるので、特別の憲法改正の必要はなかったのである。)

 

このほか、武力攻撃事態等に備えた国民保護法では、住民の退避、救援、保護に関して自治体が国民保護計画を作成することが中心であって、住民に対する強制力を伴う措置は想定されていない。

 

 

また、警察法第71条において、首相は区域、期間を定めて「緊急事態の布告」を発することができ、警察庁長官を直接指揮するという規定がある。しかし、これにより、特段の権限を警察に与えるものではなく、平時の権限の範囲で対処しなければならないという制約があるため、有事において素早い集団武装テロ犯の制圧や先制的な防御を期待することはできない。通常の手続きでは、裁判所の令状を得た後で捜索、身体検査などの強制権を発動できるだけだから、間に合わない恐れが大きいのである。

 

さらに、反乱や大規模テロ、大暴動が発生し、警察だけで対応できない状況においては、首相は自衛隊法により治安出動命令を発して、自衛隊員を動員することができるが、この場合も、武器使用の権限については、自衛隊法第90条等により定められているけれども、武器行使以外の権限については明確な規定がない。これについても、欧米諸国の法律を参考にして、自衛隊の権限を拡大することが急務となっている。全国の原子力施設に対する一斉のテロ攻撃や破壊工作を想定しただけでも、到底警察力だけで対応しきれないことは明らかであろう。 

 

 

<まずは、個別の法律から着手>

 

これまで民主党は、人権尊重を最大限織り込んだ「緊急事態基本法」の制定を提案してきたが、ISテロリストの脅威や発電所、鉄道網に対する大規模妨害行為、首都に対するミサイル攻撃が身近に迫ってきていることを考えると、「基本法」ではあまりにも悠長な話である。

 

他方、自民党は、憲法改正によって首相の緊急事態権限を盛り込もうとしているが、これもいつ実現するか五里霧中の状況にある。また、同党の憲法改正案によれば、緊急事態において「内閣は、法律と同一の効力を有する政令を制定することができる」として、権限規定をすべて政令に委任しようとしているが、やはり、事前に法律によりできる限り明確に警察と自衛隊と自治体の権限を定めておくのが望ましいと思う。

(永田町、霞が関がミサイル攻撃を受けるなど国家の指揮中枢機能が打撃を受けた非常事態には、憲法委任政令に大幅に任せてもよいが、それにいたらない程度の緊急事態に対しては、事前に法律を整備しておくのがのぞましい。指揮中枢の機能がマヒした非常事態と指揮中枢がまだ機能している緊急事態を区別して対応すべきと考える)

 

そこで、至急、議員立法により、主として武装テロ、化学兵器テロ、生物兵器テロ、送電破壊など都市住民と都市インフラの攪乱攻撃を想定した緊急事態法を制定することを提案したいと思う。フランス、イギリスの類似の法律を参考にして作成した要綱は、次のとおりである。

 

 

「緊急事態対処法」(仮称)

 

 

1 国民の生命、身体、財産に対する武装集団その他の破壊組織による攻撃または威嚇の事態が生じた場合は、内閣総理大臣は警察法第71条に基づき、区域及び期間を定めて緊急事態を発令することができる。

 

2 緊急事態を発令した場合において、内閣総理大臣は、警察庁または都道府県警察に対し、宣言された区域及び期間において次に掲げる権限を行使することを許可するものとする。許可した場合において、内閣総理大臣は警察庁長官を指揮監督するものとする。

 ① 裁判所の令状を得ないで、容疑者に関する必要な情報を収集すること

 裁判所の令状を得ないで、容疑者の家宅捜索、身体検査、所持品検査、武器の押収または一定期間内の身体の拘束をおこなうこと 

 裁判所の令状を得ないで、容疑者にかかる貨物の解包、輸送の停止、押収を行うこと 

 空港、港湾その他重要施設の封鎖または立入り制限、貨物の搬入出の禁止または制限をおこなうこと

 区域内の土地を強制使用すること

 区域内の家屋その他の施設、器具、機械または動植物を没収、破壊、分解または徴用すること

 区域と時間と対象を定め不審者、住民、車両の移動を禁止または制限すること

区域と時間を定め映画館、劇場、飲食店その他不特定多数が集合する集会場を閉鎖すること

区域と時間を定め集団的示威行為または大規模な催事を禁止または制限すること

 

3 緊急事態を発令した場合において、内閣総理大臣は、防衛省または自衛隊に対し、宣言された区域及び期間において次に掲げる権限を行使することを許可することができる。

 

許可した場合において、内閣総理大臣は防衛大臣を指揮監督するものとする。

 ① 区域内の街路、空路、航路および空港、港湾、発電施設、交通施設等の指定された重要施設を警備、警戒および監視すること

自衛隊法第90条(治安出動)、91条の2(警護出動)または91条の3(国民保護活動)の規定に基づき権限を行使すること

③区域内の土地を強制使用すること

区域内の家屋その他の施設、機械、器具、動植物を没収、破壊、分解または徴用すること

 

 

 

4 前掲の都道府県警察または自衛隊の権限の行使は、攻撃または威嚇の防止並びに被害の拡大を防止するに合理的に必要な範囲にとどめるものとする。この場合において、自治体、国民および企業、団体は、都道府県警察または自衛隊の活動に協力しなければならない。

 

5 対象とする区域は、我が国の領土、領空、領海、漁業水域および大陸棚を含むものとする。

 

6 移動の制限または施設の閉鎖命令を受けたものは、裁判所に異議を申し立てることができる。

 

7 緊急事態を発令する場合において、内閣総理大臣は、事前に衆参両院議長にその旨を通知するものとする。

 

8 緊急事態宣言の期間は最大4週間以内とする。ただし、国会の承認を得て最大6か月まで延長することができる。

 

9 違反行為に対し適切な罰則を設ける

 

 

<要綱を説明すると>

 

警察法において緊急事態宣言に関する規定がすでにあるので、これを活用するのが、国民と議会を説得するうえで好ましいと思われる。野党も、警察法にある以上、表だって宣言規定に反対することはできないはずである。

 

問題になるとすれば、権限の範囲であろう。提案した法案は、裁判所の令状を得ないで行使できる権限の範囲を定めているが、上記は、諸外国の規定に比べれば、異議申し立ての権利を認めるなどまだ緩やかである。米国では、愛国者法等により、英国では反テロリズム法等により令状を得ない通信傍受や無期限の身体拘束の権限が定められている。フランスその他においても、令状を得ない容疑者の家宅捜索、身体検査、所持品検査、武器の押収または自宅軟禁等が認められている。我が国の緊急権限は、おおむねこのような欧米諸国の水準に合わせておくのが賢明であろう。共産中国のように政権維持のためであれば警察や軍が無制限に何でもできる制度にしようというのではないのである。

 

自衛隊の武器行使についても、提案された要綱は、現行の規定の範囲をこえるものではない。すでに、治安出動、警護出動、国民保護活動の際における武器使用の権限が詳細に定められているから、これを準用すれば、野党も反対する理由がなくなる。

 

 たとえば、「小銃、機関銃、砲、化学兵器、生物兵器などが使用される高い蓋然性がある場合」でも、武器使用以外に適当な手段がないときは、「合理的に必要と判断される限度で武器を使用することができる」という規定もすでにあるから、パリのような爆弾攻撃にも十分対応できると思われる。

なお、現行法では、国民は武力攻撃事態等において「必要な協力をするよう努めるものとする」と努力義務にとどめているが、国民は「協力しなければならない」と明確に義務を定めることも欠かせないのである。

 

 まずは、政府が至急立法の準備に入ること、それが行われない場合は、議員有志が、超党派で緊急事態対処法案の要綱を発表し、世論を喚起すること、そして次に有識者と衆参法制局の知恵を借りながら立法提案を行うことが急務である。そうすれば、政府、野党も重い腰をあげて取り組まざるを得なくなるだろうと思う。半島危機の余波が収まらないうちに、国会審議が始まることを期待している。